診療案内 放射線治療の概要

放射線治療について

はじめに

この項目では、がんの放射線治療についてできるだけ分かりやすく説明していきます。 放射線治療を受けている方(受けようとしている方)に対し、放射線治療についてより理解していただくことで、安心して治療をうけ、よりよい治療効果がもたらされれることを期待しております。

もし他の患者さんがあなたと同じような部位に放射線治療を受けていても、放射線の投与される量や照射方法はさまざまです。 現在うけられている治療内容が、この項目の記載内容と異なることもあり得ます。 この項目を読まれて、疑問点がございましたら、どうぞ主治医・看護師・放射線治療技師に遠慮なくご質問ください。

要点要点

放射線そのものに痛みはありません。
外照射により患者さん自身が放射能をもつことはありません。
照射は通常、土曜・日曜・祝日を除いて、連日行われます。
治療に要する時間は10分程度ですが、照射の時間はそのうち1-2分です。
治療中は充分な休息とバランスの取れた食事をとるようにして下さい。

日本人の死因トップは“がん”

厚生労働省の人口動態統計によると、がんは1981年以来日本人の死亡原因の第1位となり、現在は全死亡者数の3人に1人ががんで亡くなっています。
しかし、近年の診断技術、治療方法の進歩により、がんを克服する人が増えていることも確かです。 がん治療の3本柱の1つである放射線治療も、最近のIT革命とともにどんどん進歩しており、今後ますます重要な位置を占めていくと考えられています。

放射線治療(放射線療法)とはなんですか?

放射線治療(放射線療法)とはなんですか?

放射線とは、光の仲間の電磁波や高速の粒子をいいます。自然の日光にも含まれています。 1895年ドイツの物理学者レントゲンによりX線(わからない線の意味)として発見されました。放射線は生体を透過します。この性質を利用して、胸や骨のX線写真のように体の内部を見、病気を発見する方法として使われてきました。この通過の際には、ご存知のように痛みはありません。
この放射線を高いレベルで用いると、このエネルギーをがんや他の病気の治療に利用できます。これが放射線治療(放射線療法・X線療法)です。

放射線はどのように人体に作用しますか?

物質中を放射線が走ると、その道筋にそって物質の分子が電離します。この電離作用により、高いレベルの放射線は細胞を殺し(DNA切断が主な原因)、細胞の成長と分裂を阻止します。 がん細胞は正常な細胞より早く成長し、分裂するので、放射線治療はがんを治療する上で有用な方法となります。
放射線治療医は、放射線の投与量と影響を受ける正常組織の範囲を厳密に設定することにより、 正常組織の影響を最小限に抑え、がん細胞を最大限に痛めつける治療計画を立てていきます。

がん治療において放射線治療はどのような役割を果たしていますか?

身体のほとんどの部位、多くの種類のがんに対して放射線治療が可能です。日本では、がん患者さんの1/3は何らかの形で放射線治療を受けています。放射線治療単独で完全に治るがん患者さんの数も大勢おられます。 また治すことを目的とした治療(根治治療)から、症状を和らげるための治療(緩和治療)まで幅広い役割を担うことができる治療です。
放射線治療は腫瘍を小さくする目的で、手術の前に用いることもあります(術前照射)。また、手術後に残っている可能性のあるがん細胞を根絶するために、放射線治療が使われることもあります(術後照射)。抗がん剤と一緒に放射線照射が行われることもあります(化学放射線治療)。
がんを完全に治すことが不可能な場合でも、放射線治療により苦痛を和らげることが可能です。腫瘍を小さくし、腫瘍による圧力、出血、痛み、さらに他の症状を減らす目的で用いています(緩和治療)。

どのような照射の方法が行われるのですか?

どのような照射の方法が行われるのですか?

放射線治療には、体の外部から照射する外部照射治療と、体の内部から照射する小線源治療があります。
外部照射治療には、リニアック(直線加速器=Linear Accelerator、ライナックとも呼ばれる)という医療専用機器が多く用いられています。これは電子を直線上に加速して金属ターゲットにあてることによりX線を発生させる機器です(以前はコバルトという放射性物質を使った機器が主流であったためコバルト療法と呼ばれたりもしました)。
小線源治療には、ラルス(RALS:Remote AfterLoading System)という専用の医療機器が多く用いられます。これは粒状の小さな線源をがんの中に入れ、内部から放射線をあてる方法です。できるだけたくさんの放射線をがんに照射し、周囲の正常組織にはできるだけ放射線をあてないことを目的としています。

副作用はないのですか?

短時間で照射することによりがん細胞にダメージを与えますが、周囲の正常な細胞へも害を及ぼします。 したがって、副作用の危険が、がん細胞を殺す利益よりは少ないと考えられる場合に治療が開始されます。副作用については別項で説明します。

どのような医療スタッフが携わっているのですか?

まず放射線治療医(放射線腫瘍医)が、個々の患者さんに最適な照射の方法と投与量を決定いたします。放射線腫瘍医は高度の教育を受けた医療チームを率いています。放射線治療のチームには以下のスタッフが含まれます。
■放射線治療看護師:看護、および治療と副作用への対処のお手伝いをいたします。
■放射線治療技師:治療を準備し、専用の医療機械を操作いたします。
■医学物理士:放射線腫瘍医と協力して放射線治療計画を行います。また、放射線治療における品質管理と安全管理全般を担当しています。
栄養士・理学療法士・ソーシャルワーカー、さらに他の医療の専門家のサービスも受けることができます。

どのような医療スタッフが携わっているのですか?

どのように治療を進めていくのですか?

どのように治療を進めていくのですか?

まず放射線治療医により入念な診察を行い、患者さんの全身状態・病状を把握いたします。次に、治療の目標とする的確な場所を決めるため、“シミュレーション”と呼ばれる過程を行います。 これには正確に照射するための“治療の姿勢”を定める目的で、CTを使用します。シミュレーションには30分から1時間程度かかり、テーブルの上で横になって動かないことが必要です。
この過程において、治療技師は専用のペンにより皮膚に治療期間中の治療部位の再現の目印となるマーキングを行います。治療が終了するまでこのマークを使用しますので、お風呂に入る際には石鹸で洗ったりこすったりしないようにしてください。
色がうすくなってきてもマークを自分で描かずに、治療技師にマークを濃く直してもらってください。 もし自分で書き直した場合には、必ず治療医または治療技師に話してください。
CT撮影データをもとに、治療計画用コンピューターを用い、患者様の病状に応じた最適な照射方法・照射線量・照射回数などを決定していきます。 この過程には数日かかかることもあります。

治療が終わるまでにどのくらいの期間が必要ですか?

照射は通常、土曜・日曜・祝日を除いて、連日行われます。 一般的には5-7週間行われます。痛みなどの症状を和らげる目的の姑息的治療の場合には、1日から2週間程度で終わることがあります。 照射の総線量と回数はがんの大きさと部位、腫瘍の種類、全身状態、そして併用される治療法などにより決まります。

放射線照射はどのように行われますか?

まず治療技師により、ベッド上で照射領域を示す皮膚のマークを指標として姿勢を決めます。 放射線が必要な部分に正確に照射されるためには、治療中は動かないことが大切です。 身体を固定するために、プラスチック製のマスクや専用器具を用いることもあります。 呼吸を止める必要はありませんが、通常の呼吸を繰り返してください。治療に要する時間は10分程度ですが、放射線照射の時間はそのうち1-2分です。
治療技師は照射前に治療室を出ていき、隣の操作室で治療機械(リニアック)をコントロールします。 一人になるように感じるかもしれませんが、テレビの画面やコントロール室の窓を通して患者さんの状態を常に観察しております。 またスピーカーを通じて、治療技師といつでも会話もできます。
放射線自体は見聞きできませんし、痛み・かゆみなどを感じることもありません。 照射中に具合が悪くなったり不快に感じたら、すぐに治療技師にお知らせください。 機械はいつでも止めることができますし、看護師が具合を伺い対応します。

治療中にはどのような注意を払えばよいですか?

十分な栄養・休息をとるように心がけてください。 治療中には多くのエネルギーを消費しますので、疲れやすくなります。バランスのよい食事をとり、必要と感じればいつでも睡眠をとるように心がけましょう。
治療部位の皮膚は特別に優しく扱ってください。 ゆったりした柔らかい綿の衣服を着ましょう。のりのついた衣服は照射される皮膚の刺激になることがありますのでやめましょう。また治療部位の皮膚をこすったり、石鹸で洗うのは避けてください。 外出の際は、照射部の皮膚を衣服や帽子などで覆い、できるだけ直射日光を避けてください。 放射線治療終了後も、少なくとも1年間は太陽光線から皮膚を守りましょう。
放射線治療を開始する前には、服用している薬を放射線治療医に報告してください。 特に抗がん剤を内服している場合は必ず放射線治療医にお伝えください。

放射線治療の副作用について

すべての人に対して同様におこりますか?

放射線治療の副作用は患者さん個々により異なります。副作用のまったくない患者さんもおりますし、大きな問題となる方もおられます。また照射の線量と照射部位、そして年齢・全身状態などによっても影響を受けます。
最も一般的な副作用は倦怠感、皮膚の変化、そして食欲不振です。これらの副作用は放射線治療の終了とともに、やがては消失します(早期の副作用)。
副作用を軽くする対処法もありますので、主治医、看護師、治療技師に御相談ください。特に強い副作用を生じた場合には、治療が中止ないしは変更される場合もあります。

照射が終わった後でも起こりますか?

照射される範囲内に消化管(胃や腸)が含まれる場合、照射の半年から1年後に消化管出血がおこることがあります。また脳が含まれる場合、数年後に脳萎縮や痴呆の起こることがあります。これらのように晩期の副作用と呼ばれる照射数ヶ月から数年後におこる副作用が起こることがありますので、少なくとも5年程度の経過観察を主治医とともに行うようにしてください。

日常生活は制限されますか?

必ずしも日常生活の活動は制限されません。放射線治療を受けている間でも、多くの患者さんは働くこと、家事、そしてレジャーを楽しむことが可能です。しかし、通常よりもより多くの休息が必要となり、いつもと同じ活動ができない人もあります。夜には十分な睡眠をとるように、また可能であれば日中でも休息をとるようにしましょう。疲れ過ぎない限りは、今までどおりの生活は可能です。

皮膚の副作用にはどのように対処したらいいですか?

照射開始後、照射部位の皮膚に発赤、乾燥、易刺激性、日焼けなどがおこりえます。しかし治療終了後、数週間以内にほとんどが消失します。ただし治療部位の皮膚の色が治療前と比較して濃く残ることもあります。
治療中は治療部位の皮膚をやさしく扱ってください。洗うときにはぬるま湯を用いましょう。
ごしごし洗ったり、引っかいたりしてはいけません。照射部位を覆う窮屈な衣服は避けましょう。
治療中または治療数週間は医師や看護師の許可なく、粉、日焼け止めなどのクリーム、香水、デオドラント、ボディーオイル、軟膏、または家庭用薬剤を照射部位に使用しないでください。これらにより皮膚の副作用が増悪することがあります。

脱毛は必ずおこりますか?

脱毛は必ずおこりますか?

治療を受けている部位のみに脱毛が生じることがあります。つまり腹部に治療を受けている場合に、頭の毛が抜けることはありません。
頭部への放射線治療により頭髪は部分的にまたはすべて抜けることがあります。治療終了後には、ほとんどの患者さんは再び毛髪が生えてきます。毛髪がなくなった後の頭皮はデリケートですので、治療中は帽子、スカーフなどで頭を覆うことをお勧めします。医療用のかつらなどが用意されていますので、看護師にご相談ください。

血液への副作用は何ですか?

放射線治療により白血球と血小板の数が少なくなることがあります。これらは感染と戦ったり、出血を防いだりしています。これら血球が大幅に減少すれば、一週間ほど治療を中止する場合があります。

食事についての注意事項はありますか?

食事についての注意事項はありますか?

頭頚部や腹部への照射など食べることに関して多くの副作用がありますが、ダメージを受けた組織を再生するため、いつも十分な栄養素をバランスよく食べるように努力してください。治療中は体重を減らさないことが重要です。
噛むときや飲み込む際に痛みがある場合には、粉状、または液体の栄養補助剤もありますので、主治医にご相談ください。

照射後、家族の被曝が心配です。

外部放射線治療では、患者さんへの照射中のみご本人の被曝が生じますが、照射後に治療室を出られたあとに周囲の方が被曝することはありません。
ただし、前立腺がんに対するI-125小線源永久挿入療法では、前立腺内に埋め込まれた線源から放射線が出るため周囲の方への配慮が必要になる場合があります。同治療を受けられる際には担当医から詳しい説明をお受けください。

放射線治療や、治療後の経過観察でレントゲンやCTを
定期的に撮影することの身体への影響が心配です。

放射線による人体への影響として、二次発がんのリスクが治療後の年数が経過するほど上昇するというデータがあります。このリスクは若年であるほど注意が必要です。一方で今かかっているがんを治療し、万が一の再発に対しても早期に発見し対応することが患者さんにとって最もメリットがあると考えられますので、適切なタイミングで放射線治療や検査を受けられることをお勧めしています。

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