研究紹介  医学物理研究

医学物理研究

研究の背景と目的

私たち医学物理グループは医学物理士を中心に、医学物理士を目指す大学院生を交え、
積極的に研究を進めています。
放射線治療は高精度化し、正確な位置に、腫瘍径に沿った精密な線量分布を与える技術が生まれ、
実現可能となっています。
より高度で、安全かつ効果的な外部放射線治療または小線源治療を担保するため、
以下に代表されるような臨床的・基礎的研究を進めており、
臨床に即した治療医学物理学を展開しています。

研究テーマ一覧

体内線量分布予測に関する研究

強度変調放射線治療(IMRT)では、治療開始前に患者ごとの線量検証が一般的に行われている。
検証内容は、電離箱線量計を用いた絶対線量測定、
2次元半導体検出器やフィルムを用いた線量分布測定を行い、
物理的に治療計画線量が正確に照射されるかを検証している。
検証の評価指標としてGamma indexを用い、
線量誤差および線量分布の空間的位置誤差を考慮して合格点を設けている。
そもそも線量検証に使用する水等価固体ファントムは
なるべく照射部位と似た形状である必要があるが、身体形状とファントム形状が異なるため、
検証誤差が患者体内のどの部分に相当するのか予測が困難という問題がある。
ファントム形状の違いに加えて、大きさおよび密度も人体とは異なるため、
あくまで物理的に正確な照射が可能か否かの判断に留まる。
本研究では治療で使用する各ビームの線量結果を利用し2次元相対誤差マップを作成し、
治療計画線量に加味することによって3次元的に体内線量分布を予測する。
この恩恵を受け、物理的に合格点を超えていた照射が可能であったとしても、
患者の臓器に対する線量が予期せぬ高線量あるいは低線量を生むか否かの評価が可能となる。

体内線量分布予測に関する研究

放射線生物学的効果を考慮したGamma index

治療計画計算線量分布と患者毎の線量検証結果を加味した体内予測線量分布間で
正確に線量が照射されるかを3次元的にGamma indexで評価した場合、
その合格率が95点であったとしても、満点に満たない残りの5点に関与する線量ボクセルが
放射線生物学的に許容できるのか否かを再評価する新たな指標を提案する。
放射線生物学的要素を考慮するために、Tumor control probability (TCP)および
Normal tissue complication probability (NTCP)を採用した。
本コンセプトの意義は、これまで医学物理士がIMRTや
定位照射における患者ごとの線量検証を実施した際に施設で規定する合格点を満たさなかった際、
放射線腫瘍医に相談し議論の結果、患者への治療開始の可否を判定していた。
これでは臨床的な定量評価が伴わず主観的要素の強いものであった。
ここを補填すべく、定量的かつ客観的に判断を下すための指標が必要となる。

下図左は、物理的な3次元Gamma indexを計算後のGamma分布である。
直腸前壁部(白)では不合格となったボクセルが存在する。
下図右はTCPおよびNTCPを考慮して再評価した放射線生物学的Gamma分布である。
矢印に示すとおり、物理的に不合格であった箇所は
実は臨床的にNTCPによる再評価を行った結果、合格となった例である。
本指標を適用すればこれまでの医学物理的要素に臨床的要素も加え融合した評価が可能となる。

  • 3次元Gamma分布(色付:合格した箇所、白:不合格した箇所)3次元Gamma分布
    (色付:合格した箇所、白:不合格した箇所)
  • 3次元放射線生物学的Gamma分布(色付:合格した箇所、白:不合格した箇所)3次元放射線生物学的Gamma分布
    (色付:合格した箇所、白:不合格した箇所)

MLCリーフ精度管理に関する研究

リーフの停止位置精度検証はGarden fence試験が一般的に用いられ、
規定リーフ停止位置に対する実際のリーフ停止位置のズレを定量的に評価する。
本研究では、リニアックに付属のEPIDを用いて
簡便かつ定量的に評価することを可能にした(図1)。

また、Step-and-shoot方式の強度変調放射線治療(IMRT)では、
各セグメントが生成するリーフ間隙の線量評価が重要となり、
治療計画装置の計算線量を正確に処方するためにリーフ停止位置精度が許容内である必要がある。
提案手法は、リーフ間隙の線量をピクセル強度で代用する手法(Nongap試験:図2)である。
本試験が必要な理由は、82MLCは経時的にリーフ停止位置が変化するためと判断するが(図3)、
リーフ停止位置の変化の程度が非常に小さく、Garden fence試験では誤差が許容内となる。

しかしながらリーフ間隙の線量は変化し、
線量処方が時間とともに成立しない可能性が示唆される(図4)。
そのため、経時的なNongap試験による間隙線量評価が必要と考える。

  • 図1 EPIDを用いたGarden fence試験図1 EPIDを用いたGarden fence試験
  • 図2 Nongap試験図2 Nongap試験
  • 図3 MLC停止位置の変化(0.5 mm/月)図3 MLC停止位置の変化(0.5 mm/月)
  • 図4 4週間のPixel ratioの変化図4 4週間のPixel ratioの変化

J Radiat Res. Sumida, et al. 53, 798-806 (2012).

MV-CBCTを用いた画像誘導-強度変調放射線治療

IMRT により、腫瘍周辺の正常組織のダメージを減らすことが可能となった。
しかし数十回に及ぶ日々の治療において患者を正確にセットアップすることがより重要となる。
我々は治療ビームにより3次元画像を取得する
メガボルトコーンビームCT (MV-CBCT) を用いて、治療台上の患者を照射直前に撮影し、
セットアップ誤差を補正してから治療を行なっている。
本来ならば撮影回数や撮像線量に伴って患者の被曝が増加するが、
我々は患者体内におけるCT線量を正確に計算する手法を確立し、
撮像線量を処方に組み込みさらにIMRTのビーム強度を最適化することで、
リスク臓器の線量増加を最小限に抑えつつ、毎回の治療における腫瘍の確認を可能にした。
セットアップ誤差を解析して患者にフィードバックし、
さらに計画手法最適化への応用を検討していく。

MV-CBCTを用いた画像誘導-強度変調放射線治療

異種計画画像融合ソフトの
deformable image registrationの正確性

放射線治療中における組織の形状変化を考慮して、
治療を行うにはdeformable image registration(DIR)が不可欠である。
その正確性を定量的に評価するため、
患者のCT画像をCheCKsight(塩見、JASTRO 2009)を用いて既知量だけ変形させ、
DIRを行った後の変形画像と元画像との比較を行っていく。

異種計画画像融合ソフトのdeformable image registrationの正確性

On-line adaptive radiotherapy(ART)における
治療計画修正の最適化

IMRTにおけるOn-line adaptive radiotherapy(ART)では
日々の形状変化に応じて治療計画を変更する。
治療計画時のCTと毎日のCTを比較し、臓器の輪郭の変化に応じて、
Step-and-shoot IMRTの各セグメントの形状を変化させる事で線量分布を改善する。
そのための、基礎的な検討を行っていく。

On-line adaptive radiotherapy(ART)における治療計画修正の最適化

子宮頸癌に対する高線量率腔内照射治療計画の
独立検証法

我々は子宮頸癌に対するマンチェスター法に基づく高線量率腔内照射治療計画における
非常に簡便な独立検証法を考案した。
すなわち、タンデム-オボイド、タンデム-シリンダーの
各アプリケータサイズの組み合わせを用い、
理想的なアプリケーションを放射線治療医により空中で作成し、
基準となるベンチマークプランを2次元ベースで作成した。
そのベンチマークプランと毎回の治療計画を比較し、
毎回の治療計画が正しく実施されていることを検証することがこの方法のコンセプトである。
検証内容は、総停留時間、ICRU report 38で報告が推奨されている線量分布の長さとした。
過去に治療を行ったタンデム-オボイド169症例、
タンデム-シリンダー29症例をレトロスペクティブに解析した。
それにより、治療計画のミスを発見できることを明らかにするとともに、
アプリケーションの質も評価できた。
本方法は非常に簡便で臨床への導入が可能であり、有用であった。
ただし、本方法はマンチェスター法に基づく2次元治療計画にのみ対応が可能であり、
今後IMRTで用いられるγ解析を用いるなどにより、
3次元Image-based brachytherapyへの対応が必要である。
Takahashi Y, Koizumi M, Sumida I, et al. J. Radiat. Res. (In press)

子宮頸癌に対する高線量率腔内照射治療計画の独立検証法

前立腺癌I-125シードの滅菌パック封入状態での
品質管理

I-125シードの製造方法や品質管理体制は、製造企業によって異なる。
米国では新興企業も多いため、
線源強度が規格値から大きく外れたシード(out of calibration seed : OCS)が、
製品に混入する事例も報告されている。
そのため、American Association of Physicists in Medicine (AAPM)は、
購入線源数の少なくとも10%の線源強度測定を推奨している。
しかし、日本では多くの施設で線源強度測定を実施していない。
日本国内に流通しているシードが高品質という面もあるが、
主な理由として被曝や時間的な制限、煩雑な測定方法、再滅菌の手間などが挙げられる。
そこで、本研究では日本国内で最も使用されているOncoSeed線源を、
滅菌パック封入状態で簡易的に行える線源強度の品質管理法確立を目的として、
検証作業を検討していく。

  • OncoSeedの滅菌パックOncoSeedの滅菌パック
  • 独自開発したジグ独自開発したジグ

粒子線治療・ホウ素中性子捕捉療法における最適化

  • 粒子線治療・ホウ素中性子捕捉療法における最適化
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